■《天声人語》 02月23日付 貧しさというのはわかりやすい。実感としてもそうだし、数字でも表しやすい。戦後、ほとんどの国民が飢えを経験したような国では、なおさらである。 最近ではあまり聞かれなくなったが、エンゲル係数という言葉がある。家計の支出のなかで食事代が占める割合だ。高ければ高いほど貧しいとされる。戦後まもないころは60%を超えていた。以来、下がり続け、現在は平均して20%ちょっとになった。 豊かさはどうだろうか。世界第2の経済大国と日本がいわれるとき引かれるのが国内総生産(GDP)だ。米国についで2番目に大きい。1人あたりにすると、円の強弱にも左右されるが、先進国中5番目前後に落ちる。さらに商品を買う力を計算に入れた購買力平価に換算すると、10位以下になる。こちらの方が実感に近いかもしれない。 国の経済力と個々の国民の経済力とは必ずしも一致しない。そのうえ、貧富の格差が大きくなっているといわれる。生活保護を受けている人は10年前の1・5倍近くになった。失業率が高まった。賃金格差が広がった。それらを例に橘木俊詔著『家計からみる日本経済』(岩波新書)が詳述している。 以前、本紙(大阪)に、62歳の無職の人からこんな投書が寄せられた。「3人家族のわが家のエンゲル係数は50%を超えて」いる、といって食費を切りつめる生活を紹介し、年金の一律引き下げをやめてほしいと訴えていた。 先週、GDPの高い伸び率が報じられた。朗報かもしれないが、同時に、豊かさの中身を考え直していく時代だろう。