■《天声人語》 02月02日付 山うどやふきのとう、たらの芽などの山菜が出回り始めた。暦より一足先に早春の香りを届けてくれる。独特のほろ苦さが舌に心地よい刺激をもたらす、日本ならではの味覚だろう。 苦みをいかに抑え込むか。そんな研究が米国で進められていることを以前、米紙が報じていた。苦みを除去する物質を開発して特許を取ったバイオテクノロジーの会社もあるという。各種の食品会社が注目しているらしい。 食品から苦みそのものを除去するのではなく、苦みを感じる舌をだます物質だという。苦み成分を口にしても、舌が反応しない。脳に信号を送ることができない。そんな作用があるという。記事は「たとえばコーヒーに砂糖やミルクを入れる必要がなくなる」というが、苦みを感じないコーヒーのどこがいいのか、と疑問もわく。 緑茶の渋みが嫌で、砂糖を入れたら飲めるという外国人がいたが、日本人だったら考えもしないだろう。ある種の苦みや渋さを尊重するのは、日本の食文化の特徴かもしれない。 食べ物だけではない。「苦み走ったいい男」という。甘さのない厳しく引き締まった容貌(ようぼう)のことだ。「渋い」というのも、なかなかのほめ言葉だ。華美でなく、落ち着いた趣味の良さをいうことが多い。江戸時代の洗練された美意識の世界「いき」に通じる感覚だろう。 寒さが残るなか、節分から立春へと季節はゆっくり巡る。そんな季節の移ろいと会話をかわすように、野山で採れたほろ苦い山菜を味わうのは、また格別。〈山独活(うど)のひそかなる香の我が晩餐〉(有馬朗人)